【権利義務取締役の報酬】 辞任や任期満了で定款で定める取締役の人数が不足する場合
東京都墨田区錦糸町で弁護士をしている鈴木淳也です。
会社の代表者や取締役も知らないことが多い、権利義務取締役(取締役権利義務者)について解説していきます。
目次
1.権利義務取締役とは
権利義務取締役とは、 法律や定款で定めた取締役の人数に不足が生じた場合に、これを補充する新たに選任された取締役が選任されるまでの間、任期の満了や辞任により退任してもなお取締役としての権利義務を有する者のことです(会社法346条1項)。
たとえば、「取締役の人数が3名以上」と定款で定められている会社の取締役がA,B,Cの3名という場合
Aという取締役が任期途中に辞任するとなると、代わりの取締役が選任されない限り2名しか取締役がいないこととなり欠員が生じることになります。そこで、Aは新たな取締役Dが選任されるまでの間、法律上当然に権利義務取締役となり、取締役としての権利義務を負うことになります。
取締役会設置会社の場合、取締役は3名以上でなければなりません。
小規模の会社の場合、定款が定める取締役の員数ギリギリの人数しかいないということが多く、一人欠けると直ちに不足が生じてしまいます。新たな取締役の選任にも多少時間を要することがあり、権利義務取締役(取締役権利義務者)となることが多いです。
2.権利義務取締役の報酬
⑴ 権利義務取締役に報酬は発生するのでしょうか?
取締役としての権利を有するので、報酬請求権も発生します。
とはいえ、権利義務取締役となることや、報酬が発生することを知らない会社の代表者や取締役が多々いらっしゃいます。
そのような会社の場合、 新たな取締役が選任されるまでの間、会社も辞任した取締役を取締役として扱わずそれゆえ報酬も支払っていない、辞任した取締役自身も役員として職務執行に従事していないということが多いです。
⑵ 権利義務取締役が取締役としての職務執行に従事していない場合、報酬請求権は発生するのか。
会社としては、取締役としての職務執行に従事してこなかった権利義務取締役には報酬請求権は発生しないと主張したいところでしょう。
この点が問題となった事案において、裁判所では以下のような判断をしています。
原告は,いまだ取締役としての権利義務を有することになり,現実的に職務執行に従事していなくても,その責任を負う場合もありうるのだから,権利,すなわち,取締役報酬請求権についても,認めざるを得ないと解する。職務執行の従事の有無やその程度は,取締役報酬請求権の有無そのものに直接影響するものではない(東京地方裁判所平成22年10月22日判決)
つまり、取締役としての職務に従事していなくても、会社は取締役報酬を支払う必要があるという判断がなされています。
未払いがあれば当然遡って支払わなければなりません。
逆に、支払いを受けていない取締役は、会社に対して取締役報酬を請求することができます。
当事務所で扱った事案でも、取締役権利義務者であった方からの依頼で会社に対して取締役報酬を請求し、支払いを受けることで解決に至っています。
3.会社の義務
法律や定款が定める取締役の人数に欠員が生じる場合、会社は新たな取締役の選任を行わなければなりません。
これを怠ると100万円以下の過料に処せられます(会社法976条22号)。
小規模な会社の場合、人数に不足が生じてもなかなか新たな取締役を選任しない会社があります。
早急に選任するようにしましょう。
4.退任登記
取締役権利義務者である間は、退任登記はできません。
新たに選任された取締役が就任する時点で退任登記を行えるようになります。
5.まとめ
通常、取締役が辞任すれば、取締役ではなくなりますが、法律や定款で定める役員の人数に不足が生じる場合は、その後も取締役として権利義務が発生し、役員報酬権も存続することになります。
会社としては、早急に新たな取締役を選任すべきです。辞任した取締役は、自身が権利義務取締役であった間の報酬を受け取っていない場合には事後でも会社に対して請求することが可能です。
当事務所でも扱っていますので、ご相談希望の方は、お問い合わせください。